貴方をこんなにも想っているけれど

  私たちの道は重なることはない。

  貴方を苦しませるのは私。

  私を縛るのは貴方。

  貴方の足枷となるなら。

  それならば私は―――。





  貴方に逢ったことは間違いじゃなかった。

  けれど罪だった。











    しみという名の別れ







つらかった。

ただそれだけの感情で愛しい人を傷つけてしまった。





彼がゴンドールとアルノールを束ねる王となってすでに幾年もの月日が流れた。

彼は彼女との間に息子をもうけてエルダリオンと名づけた。

彼女に抱かれた息子を愛しそうに見つめる彼。

私はその日、自分の中にとても醜いものがあるのを知った。

いや、もっと以前から知っていた。

けれど見ないようにした。

そんな自分は嫌だったから気づかないようにしていた。










それはとても穏やかな日だった。

小鳥たちが歌うようにさえずり、まるで彼らを祝福しているようだった。

誰もが拍手と歓声をあげる中で自分は1人孤立しているようで。

いてもたってもいられず私はそこを抜け出した。




そう、あの日に始まったのだ。

彼の婚儀の日。

私の中に醜いものが生まれた。

嫉妬という名の感情が。


私の中でどす黒い化け物が生まれた。








それからは2人を見ているのがつらくなった。

彼女が幸せそうに笑うと、私の心に鉄のくいが打ち込まれるようだ。

結局彼は彼女を選んだのだ。

覚悟していたことでも、現実はあまりに非情すぎて。





痛い。

苦しい。

つらい。




誰にも知られぬよう1人隠れて泣いたことが何度あったか。

けれど彼を憎めなかった。

何よりも誰よりも彼を愛していたから。

私の想いとは裏腹に醜い感情がどんどんどんどん膨らんで。

それでもずっとずっと我慢して。





胸を切り裂く痛みは続いた。

彼を想う気持ちと醜いものとにはさまれて。

とてもつらかった。



彼を愛してる。

彼の幸せを願ってる。

けれど。

耐えられない。






2人のそばにいるのは、限界だった。

作り笑いも、できなくなった。

もう、限界だった。






2人の幸せを壊したくはない。

けれど幸せな2人を見てるのはつらい。

それならどうするか。




答えは簡単だった。













私が嫌われればいい。


そうすれば彼らを見ずにすむ。

醜い自分に悩むこともない。

そうすればこの苦しみから解放される。


―――そう、思った。











あらいざらいぶちまけた。

それでも足りないかと思ってたくさんの嘘を吐いた。

思いつく限りの、毒を、吐いた。

彼の顔を見て思う。



ああ、終わった。


















貴方が誰を想おうと

耐えてこられたはずなのに。













暗い暗い森の奥。

年老いた木下で、ただぼんやりと座っていた。

ただぼんやりと。

何時間も、何日も、座っていた。



何を聞くでもなく 見るでもなく 歌いもせずに





哀しみが私をとらえた。

















知らなかった。




嫌われることが 拒絶されることが

こんなにもこんなにも痛くて苦しくて

・・・哀しいことだなんて




知らなかった。



貴方に拒絶されただけで

こんなに苦しくなるなんて。









ゆっくりと目を閉じる。

暗い暗い森の奥。

誰もいない年老いた木の下で。






手足の感覚が遠のいていく。



だんだんと小鳥のさえずりも 木々のささやきも



聞こえなくなっていく。




だんだんと頭の中が白くなる。












これは……『死』というもの……?









ああ、消えてしまう。


たくさんの思い出。


この世界に生まれて出逢った たくさんの人々。



優しい父。


私を育んだ故郷のエルフたち。



運命に翻弄され死を迎えた友。


その短いけれど輝かしい生をまっとうし眠りながら逝った友。


心に深く深い傷を負い西へ渡った友。


いつもそばにいて励ましあった友。







楽しさも 嬉しさも 苦しさも



すべてがそこにはあった。









けれど。












私の最期の思い出となったあの時。




あの時の怒った彼の顔さえも、もう……








……もう見えないね、アラゴルン。












ふわりとした浮遊感。



もう何も感じなかった。























彼らを別ったのは


運命ではなく


哀しみという名の






―――別れ。








それは突然訪れるもの


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